ふっ素樹脂の特性
ふっ素樹脂は耐熱性、耐薬品性、摩擦特性、非粘着性、電気特性等にすぐれた特長を持つ高機能樹脂である。最近は、アウトガスや抽出成分のほとんどない点も注目され、クリーン環境を要求される半導体分野等にも多用されている。ここでは、ふっ素樹脂の基本的な特性および特にこの樹脂の使用を検討する際にも参考になると思われる特性データについて紹介する。また、ふっ素樹脂のなかでも最も使用量の多いPTFEと溶融タイプ(射出成形できるタイプ)のPFAをメインに紹介する。
(2)特性一覧表
(3)耐化学薬品性
(4)PTFEの特性 〈熱膨張〉
(5)PTFEの特性 〈機械的特性〉
(6)PTFEの特性 〈電気的特性〉
(7)PTFEの特性 〈気体透過性〉
(8)PTFEの特性 〈純粋性〉
(9)PTFEの特性 〈摩擦特性〉
(10)PTFEの特性 〈非粘着性〉
(12)PTFEの特性 〈耐放射線性〉
(13)PTFEの特性 〈接着性〉
(14)ニューバルフロン
(15)充填剤入PTFE 〈種類と特長〉
(16)充填剤入PTFE 〈特性一覧表〉
(17)充填剤入PTFE 〈特性一覧表2・・・新タイプ〉
(18)PFAの特性 〈機械的特性〉
(19)PFAの特性 〈電気的特性〉
■ 種類と分子構造
名 称 | 分 類 | 分子構造式 |
PTFE | 四ふっ化エチレン樹脂 | |
PFA | 四ふっ化エチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル 共重合樹脂 |
|
FEP | 四ふっ化エチレン-六ふっ化 プロピレン共重合樹脂 |
|
ETFE | 四ふっ化エチレン-エチレン 共重合樹脂 |
|
CTFE | 三ふっ化塩化エチレン樹脂 | |
PVDF | ふっ化ビニリデン樹脂 |
■ 特性一覧表
■ 耐化学薬品性
名 称 | 耐 化 学 薬 品 性 |
PTFE | ほとんどの化学薬品に対して非常に安定した性質を保有しており、わずかに 溶融アルカリ金属やそれらの溶液および高温のふっ素、三ふっ化塩素等に 侵される。 |
PFA | PTFEと同じ |
FEP | PTFEと同じ |
ETFE | PTFEとほとんど同じであるが、濃硝酸に侵される。 |
CTFE | PTFEに比べてやや劣る。溶融アルカリ金属、高温のふっ素、三ふっ化塩素 に侵されるほか、高温で塩素ガスやアンモニアガスにも若干侵される。さらに、 特殊なハロゲン化有機溶剤には、高温で膨潤ないし溶解する。 |
PVDF | 発煙硫酸、100℃以上のか性ソーダに分解、アセトン、酢酸エチル、DMF、 ケトン、エステル、環状エーテル、アミド類には膨潤ないし溶解する。 |
充填材の種類と特長
充填材の種類 | 充填材識別記号 | 特 長 |
グラスファイバー | 15%…2K0 20%…2N0 25%…2T0 |
耐摩耗性が良好。 電気的特性が良好。 アルカリに侵される。 水中摩耗に弱い。 |
グラスファイバー+グラファイト | 20%+5%…2N1 | 耐クリープ性が良好。 しゅう動特性を改善する。 |
グラスファイバー+MoS2 | 15%+5%…2K7 | 耐クリープ性、圧縮強さが良好。 しゅう動特性を改善する。 電気絶縁性が良好。 |
グラファイト | 15%…1K0 | しゅう動特性が良好。 軟質相手材を攻撃しない。 |
ブロンズ | 60%…3M0 | 耐クリープ性、圧縮強さが良好。 熱伝導性がよい。 |
ブロンズ+炭素繊維 | 3U8 | 油中でのしゅう動特性が良好。 |
カーボン・グラファイト | 25%…6T0 33%…6P0 |
耐クリープ性、高温耐荷重性が良好。 |
炭素繊維 | 10%…8H0 | 水中でのしゅう動特性が良好。 耐クリープ性が良好。 |
有機系充填材 | 9A1 9A2 9B1 |
軟質相手材を攻撃しない。 安定したしゅう動特性。 耐クリープ性、圧縮特性が良好。 |
■ PTFEの特性 〈熱膨張〉
23℃付近に特有の転移点が存在し、寸法変化が大きくなるので注意が必要である。
■ PTFEの特性 〈機械的特性〉
PTFE、FEPおよびPFAの低温特性
性 質 | 温度(℃) | PTFE | FEP | PFA |
引張降伏点 (MPa) |
-253 | 123 | 164 | - |
-196 | 91 | 130 | 129 | |
-129 | 53 | 78 | - | |
-79 | 32 | 38 | - | |
25 | 12 | 14 | 15 | |
引張強さ(破断時) |
-253 | 123 | 164 | - |
-196 | 102 | 124 | 129 | |
-129 | 63 | 83 | - | |
-79 | 40 | 45 | - | |
25 | 29 | 29 | 29 | |
引張弾性率 (MPa) |
-253 | 4300 | 5100 | - |
-196 | 3200 | 4000 | - | |
-129 | 2100 | 3300 | - | |
-79 | 1400 | 2100 | - | |
25 | 600 | 500 | - | |
伸び |
-253 | 3 | 5 | - |
-196 | 7 | 7 | 8 | |
-129 | 13 | 15 | - | |
-79 | 31 | 33 | - | |
25 | 300 | 350 | 260 | |
曲げ弾性率 (MPa) |
-253 | 5100 | 5300 | - |
-196 | 4700 | 4700 | 5800 | |
-129 | 3100 | 3900 | - | |
-79 | 1600 | 2300 | - | |
25 | 600 | 700 | 700 | |
アイゾット 衝撃強さ (ノッチ)(J/m) |
-253 | 75 | 98 | - |
-196 | 70 | 92 | 64 | |
-129 | -80 | - | - | |
-79 | >480 | - | ||
25 | 101 | 破壊せず | 破壊せず | |
圧縮強さ (MPa) |
-253 | 219 | 246 | - |
-196 | 145 | 206 | 412 | |
-129 | 110 | 161 | - | |
-79 | 51 | 91 | - | |
25 | 26 | 11 | 25 | |
圧縮弾性率 (MPa) |
-253 | 6200 | 7000 | - |
-196 | 5500 | 6300 | 4700 | |
-129 | 4000 | 5100 | - | |
-79 | 2000 | 2600 | - | |
25 | 700 | 600 | 690 |
■ PTFEの特性 〈電気的特性〉
■ PTFEの特性 〈気体透過性〉
PTFEフィルムのガス透過係数(25℃)
O2 | H2 | N2 | CO2 | CH4 | C2H6 | C3H8 |
4.2×10-10 | 9.8×10-9 | 1.4×10-10 | 1.17×10-9 | 3.64×10-5 | 3.34×10-5 | 1.23×10-4 |
■ PTFEの特性 〈純粋性〉
ふっ素樹脂は薬液と接した場合に不純物の溶出がほとんどなく、また耐食性にすぐれるため、長期にわたって純度が保持されるすぐれた特性を持っている。
ふっ素樹脂のなかでも、PTFEやPFAは特に耐食性にすぐれ、クリーン度の要求される半導体産業や微量分析分野で多用される。
表にPTFEおよびPFAのチューブの硝酸溶出テスト結果を示す。
■ PTFEの特性 〈摩擦特性〉
PTFEの摩擦挙動で特長的なのは、摩擦することにより相手材に移着する現象がみられることである。
摩擦とともにPTFEが相手材に移着しはじめ、定常化するとほぼPTFE同士の摩擦となり低摩擦で推移する。
注意しなければならないのは、PTFE単体では摩耗が大きいことである。
そのため、しゅう動材用途ではPTFE単体では実用的でなく、充填材入りにして耐摩耗性や耐クリープ性等を向上させて使用される。
■ PTFEの特性 〈非粘着性〉
したがって樹脂表面に接する物質が粘着したり、接着することはまずない。
これらの性質を利用して、家庭用品や事務機(例えば定着部ロール)等に多用されている。
濡れ特性
材料の種類 | 水の接触角 | 水との接着エネルギー | 臨界表面張力(γc) |
(度) | (×10-5N/cm) | (×10-5N/cm) | |
FEP | 115 | 42 | 16.2 |
PTFE | 114 | 43.1 | 18.5 |
PFA | (FEPやPTFEと同レベル) | ||
シリコーン樹脂 | 90~110 | 47.8~72.7 | - |
パラフィン | 10.5~10.6 | 52.7~53.8 | 23 |
ポリエチレン | 88 | 75.2 | 31 |
ナイロン | 77 | 97.7 | 46 |
フェノール | 60 | 109 | - |
■ PTFEの特性 〈難燃性〉
限界酸素指数(LOI)と燃焼カロリー
PTFE | ETFE | シリコーンゴム | 塩化ビニール | ポリエチレン | |
LOI(%) | 95以上 | 30 | 25~40 | 40 | 18 |
燃焼発熱量 (J/g) |
約4,200 | 約15,700 | 約19,000 | 約18,000 | 約46,500 |
■ PTFEの特性 〈耐放射線性〉
PTFEの耐放射線性は、空気中においては酸素による分子鎖の切断反応が促進され、
0.2~0.7×104Gyで破壊がはじまる。
表は放射線照射による機械的強度の変化を示したものである。
■ PTFEの特性 〈接着性〉
化学的な表面処理法としてはアルカリ金属の溶液による処理があり、物理的な表面処理法としてはスパッタエッチング法やプラズマ処理法等がある。
PTFE同士の接着の場合は、PFAやFEPを介した融着法、PFAビードを用いた溶接法等がある。
■ ニューバルフロン
従来のPTFEの耐熱性、耐薬品性、非粘着性、低摩擦特性等のすぐれた特性を持ちながら、耐クリープ性、2次加工性、耐屈曲疲労性等を向上させた、新しいタイプのPTFE
(ニューバルフロン)が開発された。
下図に耐クリープ性を示す。従来のPTFEは、高温になるとクリープが大きくなる欠点があったが、ニューバルフロンは高温でも変形しにくい特長を持っている。したがってガスケットや自動車ほかのシール材、バルブシート等において、
従来より苛酷な条件下でより高い耐久性を得ることができる。
また、耐屈曲疲労性については、従来のPTFEに比べMIT試験で数倍の寿命が得られている。
ベローズやダイヤフラム、シール材などの用途において、より信頼性を向上させることができる。
その他に、電気絶縁性の向上や、透明性にすぐれている点も特長として挙げられる。
■ 充填剤入PTFE 〈種類と特長〉
充填材 識別記号 |
主充填材 | 色相 | 特性 ◎:優れている ○:使用可能 △:用途に応じて使用可能 ×:使用しない方が良い | |||||||||
低摩擦性能 | 耐摩耗性能 | 耐クリープ | 電気絶縁 | 帯電防止 | 圧縮強さ | 耐熱性 | 耐薬品性 | 切削加工性 | その他特長 | |||
純PTFE | - | 乳白色 | ◎ | △ | △ | ◎ | × | × | ◎ | ◎ | ◎ | |
2K0 | グラスファイバー | 白 | ○ | ○ | ○ | ◎ | × | ○ | ◎ | ○ | ○ | アルカリに侵される 水中磨耗に弱い |
2N0 | グラスファイバー | 白 | ○ | ○ | ○ | ◎ | × | ○ | ◎ | ○ | ○ | |
2T0 | グラスファイバー | 白 | △ | ○ | ○ | ◎ | × | ○ | ◎ | ○ | ○ | |
2N1 | グラスファイバー+ グラファイト |
黒 | ○ | ○ | ◎ | ○ | × | ○ | ◎ | ○ | ○ | |
2K7 | グラスファイバー+ MoS2 |
黒 | ○ | ○ | ◎ | ◎ | × | ○ | ◎ | △ | ○ | |
1K0 | グラファイト | 黒 | ○ | ○ | ○ | △ | ○ | ○ | ◎ | ○ | ○ | 軟質相手材を攻撃しない |
3M0 | ブロンズ | 黄土 | ○ | ○ | ◎ | × | ○ | ○ | ◎ | △ | ○ | 熱伝導性良い |
6T0 | カーボン・グラファイト | 黒 | ○ | ○ | ◎ | × | ○ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | 油中での摺導特性良い |
6P0 | カーボン・グラファイト | 黒 | ○ | ○ | ◎ | × | ○ | ○ | ◎ | ○ | ○ | |
8H0 | 炭素繊維 | 黒 | ○ | ○ | ○ | × | △ | △ | ◎ | ○ | ○ | 水中での摺導特性良い |
9A1 | 有機系充填材 | 黄白 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ | ◎ | ○ | ○ | 軟質相手材を攻撃しない |
9A2 | 有機系充填材 | 黄白 | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ | ◎ | ○ | ○ | 軟質相手材を攻撃しない |
9B1 | 有機系充填材 | 黒 | ○ | ○ | ◎ | △ | × | ○ | ◎ | ○ | ○ | 軟質相手材を攻撃しない |
3U8 | ブロンズ+炭素繊維 | 黒褐色 | ○ | ○ | ○ | △ | △ | ○ | ◎ | △ | ○ | |
4Y0 | 導電性カーボン | 黒 | ○ | △ | △ | × | ◎ | × | ◎ | ○ | ◎ |
■ 充填剤入PTFE 〈特性一覧表〉
■ 充填剤入PTFE 〈特性一覧表2・・・新タイプ〉
■ PFAの特性 〈機械的特性〉
特 性 | ASTM試験法 | 温度℃ | PFA | PTFE(1) | FEP | ||||
340-J | 350-J | T-160 | |||||||
引 張 強 さ MPa | D 1708 | 23 | 27 | 31 | 27-34(2) | 31 | |||
250 | 12 | 14 | 10 | 2 | |||||
引張降伏点 MPa | D 1708 | 23 | 14 | 15 | 10 | 14 | |||
250 | 3.4 | 4 | 2 | 1.5 | |||||
伸 び % | D 1708 | 23 | 300 | 300 | 300 | 300 | |||
250 | 480 | 500 | 350 | 350 | |||||
曲げ弾性率 MPa | D 790 | 23 | 660 | 690 | 270-620(2) | 690 | |||
250 | 55 | 70 | 27 | 21 |