(3)耐化学薬品性

<技・材> 表1.1.3 各種ふっ素樹脂の耐化学薬品性

名称 耐化学薬品性
PTFE ほとんどの化学薬品に対して非常に安定した性質を保有しており、わずかに溶融アルカリ金属やそれらの溶液および高温のふっ素、三ふっ化塩素等に侵される。
PFA PTFEと同じ
FEP PTFEと同じ
ETFE PTFEとほとんど同じであるが、濃硝酸に侵される。
CTFE PTFEに比べてやや劣る。溶融アルカリ金属、高温のふっ素、三ふっ化塩素に侵されるほか、高温で塩素ガスやアンモニアガスにも若干侵される。さらに、特殊なハロゲン化有機溶剤には、高温で膨潤ないし溶解する。
PVDF 発煙硫酸、100℃以上のか性ソーダに分解、アセトン、酢酸エチル、DMF、ケトン、エステル、環状エーテル、アミド類には膨潤ないし溶解する。

(4)PTFEの特性
(a)熱的性質
(イ)熱膨張 PTFEは一般の樹脂と同レベルの熱膨張係数を示す。23℃付近に特有の転移点が存在し、寸法変化が大きくなるので注意が必要である。

<技・材> 表1.1.4 PTFEの線膨張係数1)

温度範囲(℃) ×10-5/℃
25~300 21.8
~250 17.5
~200 15.1
~150 13.5
~100 12.4
~ 50 12.4
~ 30 16
~ 20 79
~  0 20
~-  50 13.5
~-100 11.2
~-150 9.6
~-190 8.6
(10~20) -16

<技・材> 図1.1.1 線膨張率1)


(b)機械的特性
(イ)引張特性

<技・材> 図1.1.2 引張応力-歪み曲線(ASTM D1457)


(ロ)圧縮特性

<技・材> 図1.1.3 圧縮応力-歪み曲線(ASTM D695)

(ハ)圧縮クリープ特性

<技・材> 図1.1.4 圧縮歪みと時間の関係(23℃)1)

<技・材> 図1.1.5 圧縮歪みと時間の関係(100℃)1)

<技・材>図1.1.6 圧縮歪みと時間の関係(200℃)1)

(ニ)ポアソン比

<技・材>表1.1.5 ポアソン比1)

樹 脂 温 度(℃) ポアソン比
PTFE 23 0.46
100 0.36
FEP 23 0.48
100 0.36

(ホ)温度特性(高温、低温)

<技・材>表1.1.6 PTFEの高温特性1)

<技・材>表1.1.7 PTFE、FEPおよびPFAの低温特性1)

性質 温度(℃) PTFE FEP PFA
引張降伏点

(Mpa)
-253
-196
-129
-79
+25
123
91
53
32
12
164
130
78
38
14
-
129
-
-
15
引張強さ(破断時)

(Mpa)
-253
-196
-129
-79
+25
123
102
63
40
29
164
124
83
45
29
-
129
-
-
29
引張弾性率

(Mpa)
-253
-196
-129
-79
+25
4300
3200
2100
1400
600
5100
4000
3300
2100
500
-
-
-
-
-
伸   び

(%)
-253
-196
-129
-79
+25
3
7
13
31
300
5
7
15
33
350
-
8
-
-
260
曲げ弾性率

(Mpa)
-253
-196
-129
-79
+25
5100
4700
3100
1600
600
5300
4700
3900
2300
700
-
5800
-
-
700

アイゾット

衝撃強さ(ノッチ)

(J/m)

-253
-196
-129
-79
+25
75
70
-
80
101
98
92
-
>480
破壊せず
-
64
-
-
破壊せず
圧縮強さ

(Mpa)
-253
-196
-129
-79
+25
219
145
110
51
26
246
206
161
91
11
-
412
-
-
25
圧縮弾性率

(Mpa)
-253
-196
-129
-79
+25
6200
5500
4000
2000
700
7000
6300
5100
2600
600
-
4700
-
-
690

(c)電気的特性
PTFEはすぐれた電気的特性を持つ。誘電率と誘電正接は樹脂のなかで最も小さく、温度・ 周波数にほとんど影響されない。絶縁抵抗も最も大きく、耐アーク性にもすぐれる。

(イ)誘電特性

<技・材> 図1.1.7 PTFEの誘電率・周波数特性1)

<技・材> 図1.1.8 PTFEの誘電正接・周波数特性1)

(ロ)絶縁耐力
<技・材> 図1.1.9 PTFEの絶縁耐力(厚さとの関係)1)

(d)気体透過性
PTFEの気体透過は温度、圧力、接触面積とともに増加し、フィルムの厚さに反比例する。 図1.1.10、表1.1.8にPTFEフィルムの気体透過度を示す。

<技・材> 図1.1.10 温度と透過度(PTFE)1)

<技・材> 表1.1.8 PTFEフィルムのガス透過係数(25℃)2)

O2 H2 N2 CO2 CH4 C2H6 C3H8
4.2×10-10 9.8×10-9 1.4×10-10 1.17×10-9 3.64×10-5 3.34×10-5 1.23×10-4
(単位:cm3・cm・cm-2・s-1・cmHg-1)

(e)純粋性
ふっ素樹脂は薬液と接した場合に不純物の溶出がほとんどなく、また耐食性にすぐれる ため、長期にわたって純度が保持されるすぐれた特性を持っている。ふっ素樹脂のなかでも、PTFEやPFAは特に耐食性にすぐれ、クリーン度の要求される半導体産業や微量分 析分野で多用される。表1.1.9にPTFEおよびPFAのチューブの硝酸溶出テスト結果を示す。

<技・材> 表1.1.9 ふっ素樹脂の溶出試験例

溶出液:

濃硝酸

溶出温度:

室温 

溶出時間:

1+6+7(日間)

加工法:

PTFE-ペースト押し出し法 

PFA-スクリュー押し出し法

分析法:

ICP-MS法orフレームレス原子吸光法

 

単位:ppb
元素 PTFE PFA
No.1 No.2 No.1 No.2
1日 6日 7日 1日 6日 7日 1日 6日 7日 1日 6日 7日
Li <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Be <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Na <0.1 <0.1 0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
Mg <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Al <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
Ti <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
V <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Cr <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Mn <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Ni <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
Co <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Cu <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Zn <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
Ga <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Ge <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Sr <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Zr <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Nb <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Mo <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Ag <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Cd <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
In <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Sn <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Sb <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Ba <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Ta <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Tl <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Pb <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Bi <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05 <0.05
Fe <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
Ca 0.2 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.1 0.1 <0.1 0.1
K <0.1 <0.1 0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1

(f)摩擦特性
PTFEは樹脂のなかで摩擦係数が最も小さい。PTFEの摩擦挙動で特長的なのは、摩擦す ることにより相手材に移着する現象がみられることである。
摩擦とともにPTFEが相手材に移着しはじめ、定常化するとほぼPTFE同士の摩擦となり低摩擦で推移する。
注意 しなければならないのは、PTFE単体では摩耗が大きいことである。そのため、しゅう動材 用途ではPTFE単体では実用的でなく、充填材入りにして耐摩耗性や耐クリープ性等を 向上させて使用される。

(g)非粘着性
PTFEやPFA、FEPは他の樹脂に比べ接触角が非常に大きく、濡れにくい性質を持って いる。したがって樹脂表面に接する物質が粘着したり、接着することはまずない。
これらの性質を利用して、家庭用品や事務機(例えば定着部ロール)等に多用されて いる。

<技・材> 表1.1.10 濡れ特性1)

材料の種類 水の接触角
(度)
水との接着エネルギー
(×10-5N/cm)
臨界表面張力(γc)
(×10-5N/cm)
FEP 115 42 16.2
PTFE 114 43.1 18.5
PFA (FEPやPTFEと同レベル)
シリコーン樹脂 90~110 47.8~72.7
パラフィン 10.5~10.6 52.7~53.8 23
ポリエチレン 88 75.2 31
ナイロン 77 97.7 46
フェノール 60 109

(h)難燃性
<技・材> 表1.1.11 限界酸素指数(LOI)と燃焼カロリー1)

  PTFE ETFE シリコーンゴム 塩化ビニール ポリエチレン
LOI(%) 95以上 30 25~40 40 18
燃焼発熱量(J/g) 約4,200 約15,700 約19,000 約18,000 約46,500

(i)耐放射線性
PTFEの耐放射線性は、空気中においては酸素による分子鎖の切断反応が促進され、 0.02~0.07×104Gyで破壊がはじまる。表1.1.12は放射線照射による機械的強度の変化を示したものである。

<技・材> 表1.1.12 放射線照射後の残存強度(空気中)1)

(j)接着
PTFEは非粘着性にすぐれているために、他の材料と接着し組み合わせて使用する場合 に接着しづらい問題がある。そこで接着の前処理として表面処理が行われる。化学的な表面処理法としてはアルカリ金属の溶液による処理があり、物理的な表面処理法としてはスパッタエッチング法やプラズマ処理法等がある。PTFE同士の接着の場合は、PFAやFEPを介した融着法、PFAビードを用いた溶接法等がある。



   

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